J・T・ロジャース『赤い右手』
いろいろな意味で「なんとも言えない作品」
- 作者: ジョエル・タウンズリーロジャーズ,Joel Townsley Rogers,夏来健次
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 1997/04/01
- メディア: 単行本
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あらすじ
結婚式を挙げに行く途中のカップルが拾ったヒッチハイカーは、赤い眼に裂けた耳、犬のように尖った歯をしていた……。
やがて山中の脇道で繰り広げられる恐怖の連続殺人劇。次々に血祭りに上げられていく人々。
悪夢のような夜に終わりは来るのか?
感想
これはなんて言おうか、いや自分はすごく面白い作品だと思う。
ただこの作品、間違いなく人によって好き嫌いが分かれると思う。そういう意味で評価がなかなか難しい。*1「オススメ」かどうかと聞かれるともっと困る。自分と同じような志向ならば勧められるが、これはいわゆる「本格好き」でも評価が激しく分かれるぞ。
またこの作品、内容に触れることをまったく許してくれない。ちょっとでも触れようものなら即ネタバレの危険性がある。とてもじゃないが感想なんて書けん。
しかし「本格が好きだ!」という人ならば、一度は読んでみてもいいんじゃないだろうか。もしかしたらもの凄く気に入ってしまうかもしれない。ただし、読み終わった後で本を壁に投げつけて「謝罪と賠償を(ry」とか言われても謝罪も賠償もしないのでそのつもりで。
評価は★★★★★。ただし瑕だらけの作品であることもお断りしておく。
……これだけじゃ書いてないも同然だな。
というわけで以下『赤い右手』ネタバレ感想
さて、ネタバレ感想。この作品の最大の肝はなんといっても「あざと過ぎるミスディレクション」だろう。
冒頭から投げ出される数々のデータが凄い。
- 主人公の医師、ハリー・リドルと殺人鬼<コークスクリュー>は背が同じくらいで同じ色の眼をしていた。また二人とも、左の耳が怪我のため裂けていた。
- リドル医師のみが、<コークスクリュー>を眼にしていない。
- <コークスクリュー>は自分を「ドク」と呼んでいた。
- <コークスクリュー>の被っていた帽子は、リドル医師のものだった。
などなど
これだけ揃えばどれだけ疑い深くても「リドル=コークスクリュー=殺人鬼」だと思うだろう。いわゆる『ジキルとハイド』だなと自分も考えた。
ところが実際は「リドル≠コークスクリュー」なのである。そしてこれらの怪しげな暗合は全て「偶然」の一言で片付けられる。そりゃないぜ、と思う人の方が圧倒的に多いに違いない。
そしてあざと過ぎるミスディレクションの影で仕掛けられるトリック。これを見破るのがまた至難の業である。
その理由は分かりにくいことこの上ない叙述である。時系列や場所を無視してあっちへいったりこっちへいったりするので、前の章で死んでた人間が突然生き返ったり、ニューヨークの描写をしていたと思ったら、唐突に事件現場に戻ったりする。こんなとんでもない文章なので、とてもじゃないが伏線を丹念に拾うなんて無理がある。ミスディレクションのあざとさもあって真相を看破できる人はまずいないと思う。
しかし本書が発表されたのは1945年。この時代にこんな凄い作品があったというのが一番の驚きだろう。
*1:自分がいつもつけてる星は主観丸出しなので問題ない(違う)