歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』

ようやくこの話題作を読んだ

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

あらすじ

 「なんでもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼される。
 そんな折、彼は自殺を図ろうとした麻宮さくらと運命の出会いを果たすのだが……

感想

 三年前に国内ミステリシーンを席巻した話題作。
 ハードボイルド風な主人公のモノローグという形式で、いくつかの事件が並行して語られるが、それらが全て収束しながら大仕掛けが決まるラストは強烈。まったく違和感なく騙されたか、というとそうではないのだが、そこはネタバレ感想で。
 ハードボイルド小説としての良さと本格ミステリ的な仕掛けがそれぞれ必然性を持って組み合わさった傑作だと思う。★★★★★


 以下、『葉桜』のネタに触れつつこの作品の長所と短所を書いているので注意。


 本作の最大の面白さは、「登場人物の大部分が実は高齢者だった」という点にある。
 将虎、愛子といった名前や、将虎の後輩である清が高校に通っているなどの細かいミスディレクションはたくさんあるが、最大のトリックは主人公のハードボイルドな口調にある。これが主人公の年齢を若く見せ、ミスディレクションとして非常にうまく機能している。
 反面、この作品には過去のパートに大きな違和感がある。成瀬将虎が二十歳のころの事件とその謎解きが描かれるのだが、いくらヤクザでも二人も三人も死んでまったく表沙汰にならないというのは80〜90年代では想像がつかない。例えば「終戦直後」のような世間が混乱していた時代ならば……と考えると意外とあっさりネタが割れてしまう。このあたりが本作のネックになっていると思う。