はやみねかおる『亡霊(ゴースト)は夜歩く』

なんだかチグハグな感じが

あらすじ

 亜衣たち三つ子の通う虹北学園には不気味な伝説がある。
「時計塔の鐘が鳴ると、人が死ぬ」
 学園祭を前にして突然鳴り出した鐘。「亡霊」と名乗るものからのメッセージ。校庭に魔方陣が描かれ、空から机が降る……。
 それなのに名探偵・夢水清志郎は温泉旅行に行ってしまう!

感想

 どうもチグハグな印象が拭えない。学園祭を舞台に事件が起きるのだが、前作に比べるとややテンションが落ちたような気がする。
 個々のトリックや捻りの効いたプロット、手掛かりの配置などは悪くないと思うのだが、肝心の犯人の動機と行動がやや乖離してしまっているような気がする。
 学校を舞台にしたせいで事件が限定的になってしまったからか、それとも学校生活への作者の意思表明がやや強すぎたのか、全体があまり締まっていないように感じた。★★★☆☆

歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』

ようやくこの話題作を読んだ

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

あらすじ

 「なんでもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼される。
 そんな折、彼は自殺を図ろうとした麻宮さくらと運命の出会いを果たすのだが……

感想

 三年前に国内ミステリシーンを席巻した話題作。
 ハードボイルド風な主人公のモノローグという形式で、いくつかの事件が並行して語られるが、それらが全て収束しながら大仕掛けが決まるラストは強烈。まったく違和感なく騙されたか、というとそうではないのだが、そこはネタバレ感想で。
 ハードボイルド小説としての良さと本格ミステリ的な仕掛けがそれぞれ必然性を持って組み合わさった傑作だと思う。★★★★★


 以下、『葉桜』のネタに触れつつこの作品の長所と短所を書いているので注意。

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三津田信三『首無の如き祟るもの』

「07年最大の衝撃作」は伊達じゃない

首無の如き祟るもの (ミステリー・リーグ)

首無の如き祟るもの (ミステリー・リーグ)

あらすじ

 奥多摩の旧家・秘守家に伝わる儀式、「婚舎の集い」。23歳になった秘守家当主の長寿郎が、三人の花嫁候補の中から一人を選ぶのである。
 しかしその最中、花嫁候補の一人が首無し死体で発見される。
 犯人は現場から消えた長寿郎なのか?
 そんな中、人々の混乱を嘲笑うかのように、二つ目の首無し死体が現れる……

感想

 これは凄い!
 題名通りに本格ミステリの基本とも言える「首の無い死体」をテーマに、戦前に起きた十三夜参り事件、戦後の媛首山殺人事件の二つの事件が起きる。共に複雑な事件ではないのだが、個々の謎が絶妙に絡み合って容易に底を割らせない。
 それでいながら探偵役自身が列挙した30以上の謎が「たった一つのある事実」だけで鮮やかに解き明かされ、見事な構図が立ち上がる解決シーンは圧巻。
 そしてさらに、その構図の上で繰り返される二重三重のどんでん返し。本格ミステリの大傑作と言っていいだろう。★★★★★