森博嗣『幻惑の死と使途』

幻惑の死と使途 (講談社文庫)

幻惑の死と使途 (講談社文庫)

あらすじ

「諸君が一度でも私の名を呼べば、どんな密室からも抜け出してみせよう」
 いかなる状況からも奇跡の脱出を果たす天才奇術師・有里匠幻が衆人環境のショーの最中に殺された。現場にはマジックの仕掛けが随所にあったが、犯行を可能にするトリックは見つからない。
 そんな中、彼の死体が霊柩車から消失するという事件が発生する。これは匠幻最後の脱出マジックなのか?

感想

 うーむ、と思わず唸ってしまう作品。確かに衆人環境下の殺人、そして死体消失とマジシャンが集う作品に相応しいイリュージョンが展開される。そのトリックも、意外にシンプルなものでありながら盲点を突いていて、良くできていると思う。また、萌絵が一度全てを解決した後に犀川が示すもう一段上の解決が非常に美しく、ある種の余韻を持たせることに成功している。
 しかしだ、ちょっとアンフェアっぽい部分があるのが気になる。それさえなければ大傑作と言えるだけに残念だ。これだけ綺麗なだけに、その欠点が逆に致命的だと思う。★★★★☆