殊能将之『黒い仏』

おいおいこらこら

黒い仏 (講談社文庫)

黒い仏 (講談社文庫)

   

あらすじ

 九世紀の天台僧・円載にまつわる唐の秘宝探しと、指紋のない部屋で発見された身元不明の死体。二つの無関係に見える事件に石動戯作が挑むが……

感想

 読み終わって絶句。またとんでもないことを……
 中盤まではどうしようもないくらいに地味なのだが、それが突然とんでもない方向に展開していく。おいおい、そんなにしてしまっていいのか。
 とはいえ、この趣向にも個人的には結構不満がある。それはネタバレ感想で。
 ミステリとしては、アリバイトリックの部分をちょっと評価する。★★★☆☆


以下、『黒い仏』ネタバレ!


 随分凄い作品である。
 なにせ、真犯人が過去に遡り石動の推理に合わせて過去を改変してしまう、というSFも真っ青のトンデモ展開が待ち受けているのだから。こりゃどう見ても真っ当なミステリではない。


 ところで、この趣向には二つの見方がある(と思う)。
 一つはアンチミステリとしての視点。いくらミステリの形式で話が進もうが、シリーズもので前作が普通のミステリだろうが、名探偵が「謎は全て解けた」と言おうが、最後まで読んでみなければ「それ」がミステリであるとは言い切れないし、ミステリでないからといって文句を言う筋合いはない(作者が「ミステリです」と宣言でもしない限り)。逆に言えば「ミステリだと思ってしまった時点で作者の思惑にはまっている」というのがこの作品の一つの見方。
 もう一つはメタミステリ的な視点。ミステリ(特に本格ミステリ)が最後に全てきっちりと謎が解けるのは、結局のところ、作者が上手く辻褄を合わせているからに過ぎない。その辻褄合わせの作業(=過去に遡っての改変)を小説に取り込んだのがこの作品といえる。言い換えればこの視点においては真犯人=作者であるといえる。


 ただ別ジャンルをもって壊しにいったにしては中途半端だし、ミステリの外側から、というにはこんな格好にする必要がないと思う。ちょっとどっちつかずになってしまっているような印象を受けた。