泡坂妻夫『煙の殺意』

 ノンシリーズものの初期短編集

煙の殺意 (創元推理文庫)

煙の殺意 (創元推理文庫)

 個人的ベストは表題作の「煙の殺意」。次点は「赤の追想」「椛山訪雪図」
「赤の追想発端からラストの一行まで、ゆったりとした男女の機微と細やかな伏線を元にした謎解きが展開される。繊細な作品。
「椛山訪雪図」主題となる掛け軸の秘密が明かされる過程が素晴らしい。映像化できたら面白そうだ。
「紳士の園」「善人ばかり」ということの恐ろしさをうまく描いている作品。伏線を張りつつ意外な所に着地するのも良い。
「閏の花嫁」花嫁とその友人の手紙のやり取りが思わぬ方向に向かっていく。ラストには前例があるが、冒頭からの落差が凄い。
「煙の殺意」火災現場のテレビ中継と殺人事件の捜査が交互に描かれる。最後には見事なアクロバットを決める傑作。
「狐の面」山伏の祈祷のカラクリをお寺の住職が暴く。最後に意外な真相があぶり出されるのが素晴らしい。
「歯と胴」倒叙型の物語の進み方から予想外の展開を見せる。ラストの皮肉な落とし方も良い。
「開橋式次第」冒頭の「朝の大戦争」が笑える。ミステリとしては亜愛一郎もののような論理の飛躍が面白い。
 バラエティに富んでいながら全編ともレベルが高い。贅沢な一冊だ。★★★★★