ジョン・ディクスン・カー『眠れるスフィンクス』

「人間の心に乾杯」(フェル博士)

あらすじ

 除隊したドナルド・ホールデンは故郷で、以前親しかったシーリアの姉が病死し、シーリアは精神障害を起こしたという話を聞く。が、彼はシーリアに会い、彼女から姉は虐待された末に自殺したと聞かされる。果たしてどちらが正しいのか? フェル博士が登場するが……

感想

 これも後期のフェル博士登場作らしい作品。人間の行動、心理からなる捻りだが、今回は読みやすい。というのも焦点となるのはヒロインのシーリアの心理であり、(彼女の行動にやや不自然なところはあるが)「主人公とヒロインは必ずくっつく」というカーのお約束を考えると、彼女が正常であるという結論が簡単に出る。実際この最初の謎は早い段階で解決する。
 しかしそのあと二重、三重に謎や障害が現れるのは良いと思う。死んだシーリアの姉の行動を掘り起こしていくのはなかなか面白い。が、犯人についてはちょっと分かり易すぎたか。何回もこのパターンでこられたらさすがに警戒する。
 あと、密閉された納骨所の中で棺が勝手に動くという魅力的な謎の扱いが軽いのが残念だが、まあ楽しめる作品だ。★★★★☆


 これでフェル博士の登場する未読長編はあと二つ(『悪魔のひじの家』『月明かりの闇』)