クリスチアナ・ブランド『自宅にて急逝』   

 ブランド流「足跡なき殺人」

自宅にて急逝 (ハヤカワ・ミステリ 492)

自宅にて急逝 (ハヤカワ・ミステリ 492)

 ブランドの不可能犯罪といえば密室ものの超傑作『ジェゼベルの死』と短編「ジェミニー・クリケット事件」が有名だが、これは「足跡なき殺人」である。「足跡なき殺人」はカーター・ディクスンの『白い僧院の殺人』があまりに有名だし、これを超える作品はそうそうない。トリックの幅も密室に比べると狭くなってしまう。
 と思っていたのだが、しかしそこはブランド、見事な技を見せてくれた。あの手この手で次々に不可能状況を打破するトリックをひねり出しては新たな犯人を作り出し、そして一瞬後にはそれを崩してみせる、その手腕は鮮やかなもの。
 おなじみのきつい皮肉やブラックユーモアもファンにはたまらない。最後の最後までどんでん返しを見せるのも素晴らしいと思う。
 「足跡なき殺人」の数少ない傑作に数えていいのでは。★★★★★