都筑道夫『七十五羽の烏』

地味ながらも傑作

七十五羽の烏 ―都筑道夫コレクション<本格推理篇> (光文社文庫)

七十五羽の烏 ―都筑道夫コレクション<本格推理篇> (光文社文庫)

あらすじ

 平将門の娘・瀧夜叉姫の祟りで伯父が殺されます――
 ものぐさ太郎の末裔を名乗る全く働く気のない心霊探偵・物部太郎のもとに依頼人が現れた。
 しかも本当に殺人事件が起きてしまい、何の因果か、難事件に巻き込まれてしまう。
 名コンビ・片岡直次郎を助手に、太郎は事件を推理する。

感想

 ものぐさ太郎の末裔を自称する物部太郎が探偵役を務める長編。
 平将門の娘の祟りがあるという旧家を舞台にした連続殺人ものだが、怪奇的な要素はほとんど出てこない。そのかわり、祟りの演出がなされた理由を意外性を持たせながら合理的に説明するなど、事件の解決はストイックなまでに論理性を追求している。
 舞台設定の割には地味なのが珠に瑕ではあるが、解決での論理性はそれを補って余りある。傑作と呼んでもいいと思う。★★★★★


 以下、この作品の短編について。
 シリーズものであるキリオン・スレイ、退職刑事、なめくじ長屋捕物さわぎが各二編ずつ。

  • キリオン・スレイ

「溶けたナイフ」
 よくある密室の変形パターン。しかしその解決、特に密室のWhyは意表をついていて面白い。
「空腹幽霊」
 百物語で語られる怪談という形式なのだが、いまいち怪奇性が薄い。解決の論理性は確かなだけに少しもったいない気がする。

  • 退職刑事

「写真うつりのよい女」
 再読。テンポの良い語り口、事件の面白さ、意外な解決。短編ミステリのお手本と言っていい作品。
「四十分間の女」
 これも再読。一度目に読んだ時は論理性に乏しいかと思ったのだが、再読するとそうでもなかった。しかしこれを読むと現実の出来事を元にするのは難しいなと思ってしまう。

  • なめくじ長屋捕物さわぎ

「百物語」
 あまり論理的ではないが、プロットの捻り方は面白い。ラストは思わずニヤリとする。
「二百年の仇討」
 なめくじ長屋の面々が活躍する一品。ただ事件自体がそれほどのものではないので、全体的に微妙。