連城三紀彦『敗北への凱旋』

真相のスケールの大きさは圧倒的

あらすじ

 戦争によって片腕を失ったピアニスト・寺田武史。彼の生涯を小説にするべく取材を始めた柚木桂作は、寺田の遺した奇妙な楽譜や、彼の遺児と思われる中国人ピアニスト・愛鈴の存在を知る。
 調査をすすめるうち、戦争に翻弄された人々の悲劇が徐々に明らかになっていく……

感想

 いわゆる暗号ミステリであるが、普通の暗号ミステリとは少し異なっている。暗号の難易度が非常に高くてとてもじゃないが読みながら解くことはできないのである。
 この作品の中心となるのは「なぜ暗号を作らなければならなかったのか」というWhyの謎。
 そしてこの暗号が解かれると同時に、なぜ伝えたのか、なぜ暗号にしなければならなかったのか、が暗号の内容と共に圧倒的な迫力で迫ってくる。ここまで複雑にする必要があるのか? 解き方が雑ではないか? という疑問はあるが傑作といっていいだろう。★★★★★