ディクスン・カー『エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件』

「歴史ミステリ」っていうより「歴史小説

エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件 (創元推理文庫)

エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件 (創元推理文庫)

あらすじ

 十七世紀、王政復古の英国。
 国王チャールズ二世暗殺の噂が流れる中、治安判事エドマンド・ゴドフリー卿が不可解な失踪を遂げ、五日後に遺体となって発見された。
 旧教徒の陰謀か、私怨による復讐か? 虚実ない交ぜの密告、反国王派の策動もあって、一判事の死は英国中を揺るがす大事件へと発展。犯人の逮捕、裁判に至るも、多くの謎に包まれたまま事件は闇へと葬り去られた。
 不可能犯罪の巨匠ジョン・ディクスン・カーが自ら探偵となり、英国史上最大の謎に挑戦する。

感想

 「殺害事件」という名はついているが、その厚さの割に殺人事件やその調査内容は驚くほど少ない。
 大部分は「『エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件』が起こった頃の英国について」という感じで、フランスやカトリック派への反発を背景にした市民の暴動、国王派と議会派の闘争が中心となっている。これがまた「よくぞここまで調べた」と言いたくなるほどの圧倒的な迫力を持っていて、当時の社会の様子や陰謀の進行する様子が見事に描写されている。
 ミステリとしての殺人事件の解決も当時の資料から手掛かりを拾い出し、見事な解決*1を提供しているが、それが二の次に思えるような歴史小説の力作である。★★★★☆

*1:もちろん真相とは限らない