土屋隆夫『危険な童話』

強烈な余韻を残す傑作

危険な童話 (光文社文庫)

危険な童話 (光文社文庫)

あらすじ

 仮釈放され刑務所から出てきた須賀俊二がピアノ教師木崎江津子の家で殺された。
 発見者でである江津子が容疑者として逮捕されたが、物証となる凶器が見つからない。
 そんな中、焦る捜査陣をあざ笑うように、一枚の葉書が届けられた……

感想

 非常に強烈な印象を残す作品。
 冒頭に幻想的な「月女抄」が紐解かれて物語が始まるが、その直後、冒頭とはまるで無関係に現実的で散文的な事件が幕を開ける。まずこの落差に面食らってしまった。
 ミステリとしての展開は、刑事達の捜査によって巧緻な犯罪が少しずつ暴かれていくといった形。しかし、その過程は警察小説というにはやや直感に頼った推理が多く、トリッキーな本格ものといった印象が強い。
 最も印象に残るのは最後に明かされる真相の怖さ。残酷ささえ感じさせるトリックや動機は正に危険な童話というにふさわしい。★★★★★


以下、この本に収録された短編
「判事よ自らを裁け」
 事件を裁くということの重さとそれを受け止めることの難しさが描かれている。いわゆる名探偵論につながるところもあるのでは。
「変てこな葬列」
 どこかユーモラスな雰囲気が抜けないサスペンス。結末は見えているがそこへ至る過程が面白い。
「情事の背景」
 この中ではオーソドックスな本格短編。きちっと伏線を回収して上手く締めている。