オットー・ペンズラー編『魔術ミステリ傑作選』

不可能犯罪集……でもない。

魔術ミステリ傑作選 (創元推理文庫 170-1)

魔術ミステリ傑作選 (創元推理文庫 170-1)

 奇術と魔術と不可能犯罪のアンソロジー。個人的ベストは「パパ・ベンジャミン」(ウィリアム・アイリッシュ「決断の時」(スタンリー・エリン)
「この世の外から」(クレイトン・ロースン)
 おなじみグレート・マーリニものの密室殺人。超能力も密室トリックも今やありがちとなってしまったが、犯人指摘の過程は面白い。
「スドゥーの邸で」(ラドヤード・キプリング
 独特の舞台設定と、それを利用した落ちが上手い。がラストがイマイチ意味不明。
「登りつめれば」(ジョン・コリアー)
 ヒンズー・ロープをネタにしたパロディ。「鏡を使ってるんだ!」に笑ってしまった。
「新透明人間」(カーター・ディクスン
 マーチ大佐ものの一編でこれは再読。透明人間のトリックは有名だが、細かいトリックや動機に冴えを見せる。
「盲人の道楽」(フレデリック・I・アンダスン)
 魔術師マルヴィノについてはある程度読めたが、オチには気づかなかった。なるほど、上手い。
「時の主」(ラファエル・サバチニ
 カリオストロ伯爵が主人公という変わった作品。ただなんか質の悪い詐欺に騙されたような感じがするんだが……。
「パパ・ベンジャミン」(ウィリアム・アイリッシュ
 流石はアイリッシュ、と唸らされる見事な作品。序盤の不安と好奇心の煽り方、中盤の恐怖、そして終盤急転直下の解決。ラストも素晴らしい。
「ジュリエットと奇術師」(マニュエル・ベイロウ)
 短い枚数ながらも非常によくできたクライム・ノベル。トリックも上手いが、それ以上に事件が一捻りされているのが面白い。
「気違い魔術師」(マクスウェル・グラント)
 この中では割と平凡な作品。奇術師や奇術の道具がたくさん出てくるだけで、特に目新しい要素はない。
「パリの一夜」(ウォルター・B・ギブソン
 犯人はかなり早い段階で分かってしまうが、豪快な密室トリックが炸裂する。
「影」(ベン・ヘクト
 出てくる魔術師はアンリアルなだけに、異常なほどの怖ろしさを感じる。
「決断の時」(スタンリー・エリン)
 二人の男の確執から行なわれた賭けが非常に強烈なサスペンスとなって迫ってくる。ラストの終わり方が抜群に上手い。
「抜く手も見せず」(E・S・ガードナー)
 ネックレスの盗難事件だったのに、いつの間にか隠し場所トリックになってた。リースのトリック、そしてそこから隠し場所を探し出すのは上手い。


 バラエティに富んでいて面白いが、まあ「傑作選」っつーほどでもないかな。★★★★☆