法月綸太郎『ふたたび赤い悪夢』

名探偵、悩む

ふたたび赤い悪夢 (講談社文庫)

ふたたび赤い悪夢 (講談社文庫)

あらすじ

 法月綸太郎のもとに深夜かかってきた電話。救いを求めてきたのはアイドル畠中有里奈だった。ラジオ局の一室で刺されたはずの自分は無傷で、刺した男が死体で発見される。彼女は恐怖と混乱に耐え切れず、法月親子に助けを求めたのだ。
 果たして彼女に何が起こったのか?

感想

 ミステリというよりは、名探偵・法月綸太郎の苦悩と悟りの物語、といった方がいい作品。これに今まで何度も作者が取り上げてきた親子のテーマと奇怪な状況での殺人が加わる。
 読んでいてエラリー・クイーンよりもむしろロス・マクドナルドに近いなと思った。クイーンのいわゆる「後期クイーン問題」というのに自分があまり関心を持ってないこともあるのだろうが、探偵の眼を通した全体の荒涼とした雰囲気や親子の血の呪縛のようなものが中心に据えられているところがロスマクに似ている。
 事件についてはなかなか良くできていると思うが、それほど強烈な印象は残らない。むしろメインは名探偵の悟りについてなのだが、これもあくまでとりあえずの解決であって、これで決定打というような感じにはなってない気がする。厚みの割に『頼子のために』ほどの衝撃はなかった。★★★★☆