カーター・ディクスン『騎士の盃』

らしいっちゃらしい「最後の事件」

騎士の盃 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-10)

騎士の盃 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-10)

あらすじ

 誰かが鍵のかかった部屋に入り、騎士の盃を動かしている……ブレイズ卿夫人の訴えに、マスターズ警部は現地に赴いた。しかしH・M卿は歌の練習に余念がない。仕方なく一人で問題の部屋に泊まった夜、マスターズは何者かに殴られた。
 ドアを抜け、宝物を盗まずに動かすだけという犯人の意図はどこに?

感想

 H・M卿最後の事件なのだが、これはもはや本格ミステリにすらなってないんじゃないかと思う。大部分はドタバタ喜劇に費やされていて、しかもそれが謎解きにほとんど関わってこない。ユーモアミステリ、というかスラプスティック・コメディである。個人的には好きだし、面白いからいいんだけれども、それでもちょっと弾け方が足りなかったような。
 肝心の密室トリックや騎士の盃を盗まなかった動機などは非常に綺麗でよくできていると思うが、いかんせんこの長さでこれではちょっと辛い。
 『魔女が笑う夜』『赤い鎧戸のかげで』と似たベクトルの作品だが、ちょっとパワーに欠けるか。★★★☆☆