法月綸太郎『頼子のために』

深みのある傑作

頼子のために (講談社文庫)

頼子のために (講談社文庫)

あらすじ

 「頼子が死んだ」
 十七歳の娘を殺された父親は、通り魔事件で片付けようとする警察に疑念を抱き、単独で犯人を突き止めて相手を刺殺、自らは死を選ぶ……という手記を残していた。
 手記を読んだ名探偵法月綸太郎は事件の再調査に乗り出すが……

感想

 ニコラス・ブレイク野獣死すべし』を彷彿とさせる発端だが、単純に見えた事件に徐々に暗雲が垂れ込めていく中盤の調査は、ハードボイルドな名探偵法月綸太郎のキャラクターと相まって緊迫感に溢れている。ここが非常に面白い。
 ミステリとしては、特に何かトリックが仕掛けられているというわけではない。しかし、練りに練ったプロットと登場人物達の織り成す関係が非常に有機的に結びつき、お互いに深みを与えている。そしてラストの衝撃。巧緻な傑作だ。★★★★★