ロイ・ヴィッカーズ『百万に一つの偶然』

 倒叙ものの傑作短編集。前作の『迷宮課事件簿』と共におすすめ

百万に一つの偶然―迷宮課事件簿〈2〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

百万に一つの偶然―迷宮課事件簿〈2〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 短編集。個人的ベストは「百万に一つの偶然」、次点が「ワニ革の化粧ケース」
「なかったはずのタイプライター」タイプライターの音はどこから出てきたのか、その疑問の答えが非常に美しい。それにしても何とも凄いまぐれ当たりからの捕まる犯人が哀れ。
「絹糸編みのスカーフ」被害者が徐々に犯人を追い詰めていく描写が秀逸。ラストも印象深く忘れがたい。
「百万に一つの偶然」犬の迷信的な力に怯える犯人がよく描かれている。しかしなによりもラストが秀逸。これぞ正に「百万に一つの偶然」だ。大傑作。
「ワニ革の化粧ケース」女に振り回される犯人の男の様子が同情を誘う(笑)。最後の一撃がよくできている。
「けちんぼの殺人」犯人の計画の上手さが素晴らしいが、例によってへんなまぐれ当たりで捕まってしまう。
「相場に賭ける男」頼りないと思われていた男の思わぬ遺産が破滅を引き起こす。その皮肉な逆転が面白い。
「つぎはぎ細工の殺人」この中ではちょっと弱い作品だろうか。最後の一撃はまあまあの面白さ。
「九ポンドの殺人」主人公のマーガレットが落ちぶれていく姿がよく描かれている。ラストは例によってまぐれ当たり。
「手のうちにある殺人」犯人の言った何気ない言葉から見事な推理が展開される。非常に鮮やかな効果を持った一品。
 どれもかなりよくできた作品。贅沢な一冊だ。★★★★★