筒井康隆『ロートレック荘事件』

 うはあ、こりゃ凄い

ロートレック荘事件 (新潮文庫)

ロートレック荘事件 (新潮文庫)

あらすじ

 夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのだが……。二発の銃声が惨劇の始まりを告げた。一人また一人、美女が殺される。

感想

 これは凄い。どう書いてもネタバレになってしまうがとにかく凄い。物語自体は特にこれという山もなく谷もなく平凡に展開していくが、ラストにそれを補って余りあるほどの意外な真相を用意している。「十角館」のようにミステリ部分にだけ注力し、それを最大の形で成功させた傑作。★★★★★

以下ネタバレ
 この作品のメインにして唯一のトリックは「二重の二人一役」である。

  • 浜口視点の時には重樹(犯人)=工藤の二人一役
  • 重樹(犯人)視点の時には浜口=工藤の二人一役

 この二重の二人一役を成立させるため、場面ごとに頻繁に視点を変えたり、浜口に重樹の護衛役という役割を与えたりすることでトリックを成立させている。


 もちろん伏線もしっかり張ってあって、例えばロートレック荘二階平面図の部屋割りにおいて、浜口と重樹が一緒に止まる部屋は「浜口重樹」と読める一方、工藤忠明の部屋は「工藤」とだけ記されていること、重樹視点の文章では浜口修を「わが忠実なる護衛兵」というように呼ぶ一方で、工藤忠明は単純に「工藤」と呼んでいること、などがある。