鮎川哲也『憎悪の化石』

 『黒い白鳥』と共に日本探偵作家クラブ賞(今の協会賞)を受賞した作品。

憎悪の化石 (創元推理文庫)

憎悪の化石 (創元推理文庫)

あらすじ

 熱海に投宿中の湯田真壁なる男が殺害された。被害者の身辺を洗ってみると、生前に多くの人間を恐喝していたことが分かった。そこから十人以上の容疑者が浮かんだが、その全員に完全なアリバイが成立してしまう……

感想

 容疑者が十二人と異常に多いものの、その全員にアリバイが成立してしまう。そんな中、後半から登場した鬼貫はそれまでに集まった証言の中のささやかな不自然さから糸口を掴み、そこから新たな証言を得て、さらに手掛かりを掴んでいく。
 この細い糸をひたすらに手繰っていくような調査と証言からの緻密な推理は鮎川哲也の真骨頂といったところだろう。
 今回は二つのアリバイトリックが用意されているが、やはり一つ目の方がよくできている。
 警察による捜査過程やアリバイが崩されていく過程が非常によく書けていると思う。★★★★☆