夏樹静子『Wの悲劇』

 こらまたえらく凝った作品だ

Wの悲劇 (角川文庫 (5679))

Wの悲劇 (角川文庫 (5679))

あらすじ

 雪に覆われた山中湖畔にある和辻製薬会長の別荘。和辻家の一族が正月を過ごしていた別荘で、突然事件が起こった。女子大生の摩子が大伯父にあたる一族の長、与兵衛を刺殺してしまったのだ。一族は摩子を庇うため、事件を外部犯のしわざに見せかけるが、警察の捜査は一歩一歩着実に進んでいく……

感想

 一族の誰からも愛されている娘が殺人を犯し、他の全員がそれを庇うための偽装工作を行なう。そして警察が捜査によって偽装工作を暴いていく。こう書くといかにも倒叙的だし、実際途中までは倒叙的な進行なのだが、物語が進むにつれて事件は二転、三転する。
 ミステリとしての中身に関わってくるのでこれを詳しく書くことはできないが、一捻りも二捻りもある、非常に凝ったトリッキーな傑作だ。★★★★★


 以「下ネタ」バレ
 この作品はおよそ3つのパートに分けられる。
 第一に犯行及び偽装工作の過程、第二に警察の捜査、第三が偽装工作を暴露しようと細工した人間の捜査である。
 最初の時点での問題は「誰が、何のために摩子の犯行が露見するような真似をしたのか?」だった。一族の誰からも愛されていた摩子の罪が暴露されるように細工したのはなぜか? というのが問題になった。
 ところがやがて、摩子以外の犯人がいるのではないか? という疑惑が持ち上がり、ついには「真犯人=偽装を警察に暴露しようと細工した犯人」という構図が現れる。
 当たり前の倒叙を抜け出した後にさらに二転、三転する事件が非常に面白い。特に終盤の怒涛の展開には圧倒された。
 あえて欠点を挙げるなら、伏線が少し乏しいかもしれない。