鮎川哲也『黒い白鳥』

 日本探偵作家クラブ賞(今の協会賞ですね)受賞作

黒い白鳥 (創元推理文庫)

黒い白鳥 (創元推理文庫)

あらすじ

 六月二日早朝、久喜駅近くの線路沿いで男の射殺死体が見つかった。列車の屋根に乗って運ばれた男は労働争議に揺れる紡績会社の社長と判明。犯人は労働組合側の人間か、新興宗教に出入りする元諜報部隊の男か? しかし容疑者には次々とアリバイが成立し、事件は混迷する。鬼貫は一本の細い手掛かりを追って、西へと向かう……。

感想

 解説で有栖川有栖氏が本作を「鮎川ミステリの完成形」と書いているのを読んで、なるほどと思った。
 まず初めに一見単純に見える事件が起こる。しかし捜査が進むにつれて次々と意外な事実が明らかになり、事件の様相は二転、三転。有力な容疑者が次々と嫌疑の外に逃げていく中、必死の捜査によって意外な犯人が分かる。しかし、犯人には鉄壁のアリバイが……という鮎川ミステリの型(それとも警察小説の型?)そのものがここにあり、その形は他とあまり変わらない(といっても『黒いトランク』『鍵穴のない扉』『人それを情死と呼ぶ』くらいしか読んでいないが)。
 しかしその展開が非常に面白い。八方塞がりの中、鬼貫が九州まで細い手掛かりを追っていった末に思わぬ事実が浮き上がるシーン、犯人の強固なアリバイを論理的に崩していくシーンなどは非常に面白い。
 しかし何よりも凄いのはメイントリックの伏線の張り巡らせ方だろう。大胆不敵な伏線の張り方に思わず唸らされた。
 特に何が突き出ている、というわけでもないが、がっちりとした良質の本格。★★★★★


 ところで最初の事件の舞台となった久喜駅は自分の家の近くだったりする。