倉知淳『壺中の天国』

 川神さんが自分のブログの名前にするほど偏愛するわけだ。これは傑作!

壷中の天国 (角川文庫)

壷中の天国 (角川文庫)

あらすじ

 知子とその家族が住む静かな地方都市、稲岡市。そこで通り魔連続殺人が発生する。それと同時に市内にばら撒かれる怪文書。犯人は何者か? 目的は? 被害者同士を繋ぐミッシング・リンクは……?

感想

 という筋立てではどう考えても本格にならなそうなのに、それを見事な本格ミステリとして仕上げた、ということがまず凄い。
 本来サイコ・キラーと本格は物凄く相性が悪い。サイコ・キラーものでは基本的に容疑者が限定されていないから、犯人の特定は不可能に近い。が、作者は見事にそれをやってのけた。あちこちから伏線を寄り合わせ、犯人の条件を搾り出すシーンは圧巻。よくもまあこれだけ伏線を丁寧に張ったもんだと感心してしまう。
 また、縦横無尽に伏線を張り巡らせながら、ただの小説のように仕立て上げてしまう技術は素晴らしい。主人公の知子とその家族が捜査資料を見たりするシーンはあるが、大部分は普通の小説になっている。
 あえて弱点を挙げるとサスペンスに乏しいことか。しかし、それはこの形では無理もないだろう。犯人当ての伏線のキレは恐ろしいほどだが、ミッシングリンクには(個人的には)笑ってしまった。まあでもいいさ、ミッシングリンクだし。
 デアンドリアの『ホッグ連続殺人』と並ぶ、数少ない<本格×サイコ・キラー>の傑作だろう。★★★★★


ホッグ連続殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ホッグ連続殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

これも<本格×サイコ・キラー>の傑作。